前回は、銀行の信用格付とはどのようなものか、決算書に基づいて決まることなどを紹介しました。
つづいて今回は、決算書の確認ポイントや決算書以外の定性評価、信用格付を上げるためのポイントを紹介します。
B/Sをチェックする目的は、「実質自己資本」つまり会社の純資産が実態ベースでどのくらいか、を算出することになります。
勘定科目 | 確認ポイント |
売掛金 | 回収不能となっている、回収不能となりそうな売掛金は無いか |
棚卸資産 | 同業平均と比べて在庫が多くないか |
貸付金、その他流動資産(仮払金、立替金など) | 出金先、内容など不自然なものがないか |
建物、構築物、器具備品 | 本業で使われている資産か、減価償却費は適切に計上されているか |
土地 | 遊休資産となっていないか |
投資有価証券、関係会社株式、出資金 | 時価や実質価値と比べ大幅に価値が減少していないか |
繰延資産 | 法定年数で償却されているか |
P/Lをチェックする目的は、「実質キャッシュ・フロー」つまり借入金の返済原資となる会社が生み出すキャッシュはどのくらいか、を算出することになります。
勘定科目 | 確認ポイント |
支払利息 | 支払利息は営業利益より過大となっていないか |
雑収入 | 一過性のものなどないか |
特別利益・特別損失 | 特別利益・特別損失は考慮しない |
「実質キャッシュ・フロー」は、以下の計算式により算出されます。(金融機関により若干異なるが基本的考え方は同じ)
実質キャッシュ・フロー = 経常利益※ × 70% + 減価償却費
※この経常利益は、雑収入に計上されたもののうち一過性のものなどが除かれ、実力値としてのものが用いられます
※70%の意味は、法人税等の税金を考慮した後の金額ということです
実質キャッシュ・フローは、借入金の返済原資と考えられますので、大変重要な数値になります。計算式を覚えておきましょう。
信用格付により、融資先が「正常先」、「要注意先」のいずれかに分類されるかは、融資金額や担保の有無、金利に影響します。
どちらに分類されるか、次の3つの指標に注意しましょう。
要償還債務年数 = 長期有利子負債Ⓐ ÷ 実質キャッシュ・フロー
Ⓐ長期有利子負債 = 有利子負債 − 運転資金(売掛金+棚卸資産−買掛金)
この年数が、10年以内に収まっていることが一つの目安となります(装置産業を除く)。
もし、10年に収まっていないようであれば、早急に10年以内に収まるよう何らか方法を検討する必要があります。
借入依存度 = 短期借入金(手形割引含む) + 長期借入金(社債含む) ÷ 総資産
借入依存度が60%を超えているかどうかが正常先と要注意先の分かれ目となります(装置産業を除く)。
経常収支比率 = 経常収入(収益) ÷ 経常支出(費用) × 100(%)
経常収入とは売上高、営業外収入からなり、経常支出は売上原価、販売費及び一般管理費、営業外費用からなります。
100%を超えていることが必要ですが、直近3期のうち2期以上で100%割れとなっている場合には、要注意先となる可能性があります。
信用格付を決める要素は、決算書だけではありません。次の点において問題がないかどうか確認されます。
項目 | 確認ポイント |
経営者自身の情報 | 経歴、倒産歴、会社資金費消の公私混同、後継者の有無 |
取引先関係 | 取引先規模、取引先数や依存度合など |
労使関係 | 労使間のトラブル、訴訟の有無など |
社内管理体制 | 融資資料や決算書の精度、決算終了までの日数など |
こうした定性情報は、決算書からはわかりませんので、経営者とのコミュニケーションから評価されています。
以上の注意点を考慮した上で、では信用格付を向上させるためにはどうしたらよいでしょうか。
つまり、信用格付を向上する即効性のある特効薬はなく、財務の向上を意識した日々の経営努力を地道に積み重ねることが重要です。